居住用財産の3,000万円控除とは?適用要件や必要書類まとめ

2023年5月10日

「居住用財産3,000万円控除」という特例をご存じでしょうか。所有期間に関わらず利用できることから、マイホームを手放した際に発生する税金を抑えられます。

ここでは、「居住用財産3,000万円控除」の適用要件や申請に必要な書類を紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。

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監修者 佐藤 憲亮(さとう けんすけ)

京都市出身。「お客様との対話を大事に」をモットーに、気軽に相談できる専門家として税 務顧問業務をメインに活動中。また、実務経験で培った知識や経験を活かし、税務記事や税務 論文の執筆、自身でブログの運営もしている書くことが好きな税理士。大学卒業後、税理士事 務所で12年の実務経験を積み、2020年に税理士登録。現在、京都を拠点に活動している。

居住用財産の3,000万円控除とは

「居住用財産の3,000万円控除」とは、マイホームを売った際に生じた譲渡所得を最大3,000万円まで控除できる制度です。正式名称は「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」ですが、一般的には「居住用財産の3,000万円控除」と呼ばれています。

なお、控除適用時には細かく条件要件が決められており、マイホームを売却した人すべてが控除を利用できるわけではありません。

次の章で詳しく見ていきましょう。

居住用財産の3,000万円控除の適用要件

居住用財産の3,000万円控除の適用要件は、売却する家と人、その時の状況などによって定められています。

売却するマイホームの適用要件

控除が適用されるのは、下記要件に当てはまる時です。

【控除を利用できる要件】

・自分が住んでいる家または家とともにその敷地・借地権を売却した場合

・住んでいた家を売却した場合

※条件:住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売却すること

出典:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁

「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」控除は、あくまでもマイホームを売却する人に向けられた控除です。節税目的での利用を防ぐために、以下のケースでは適用されません。

【特例の適用外ケース】

・控除の利用だけを目的とし入居した家

・マイホームを新築する期間中だけ住んだ仮住まいや一時的に住んだ家

・別荘など趣味や娯楽、保養目的で所有していた家

出典:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁

売却する人・状況の適用要件

控除を利用するには、建物や土地だけでなく、人や状況においても下記の適用要件を満たす必要があります。

【人や状況における適用要件】

・売った年の前年および前々年に、居住用財産の3,000万円控除やマイホーム買い換え時の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例を適用していないこと

・売った年や前年、前々年にマイホームの買い換えや交換の特例を適用していないこと

・建物や敷地が収用などの特別控除や、その他の特例を受けていないこと

・災害によって失った家の場合は、その土地に住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること

・売主と買主が親子や夫婦など特別な関係にないこと

出典:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁

居住用財産の3,000万円控除の適用可否が難しいケース

マイホームを売却する人の中には、先ほど解説した要件に該当するのか判断が難しいケースもあるでしょう。判断が難しいケースの適用可否を、それぞれ詳しく解説していきます。

持ち主が単身赴任をしていたケース

家の所有者が単身赴任中で、配偶者や子どものみが住んでいた家を売却した場合も、控除を適用可能です。ただし、以下のような事情がある場合とされています。

【特例の適用が認められる事情】

・本人に転勤や療養などの事情があり、配偶者や子どもと離れて住んでいる場合

・上記の事情が失われれば、再び配偶者や子どもが住んでいる家で一緒に生活すると認められる場合

売却時点でマイホームを2ヵ所以上所有していた場合は、売主が主に住んでいた家のみが適用対象となるため、注意が必要です。

店舗併用住宅を売却するケース

たとえば、八百屋や美容院などのお店と自宅を併設している店舗併用住宅を売ったケースでも、一定の適用要件を満たしていれば居住部分のみに対して控除が適用されます。

また、居住用に使用していた部分が建物全体の9割以上の場合には、全体を自宅として使用していたとみなされます。

マイホームを取り壊した後に売却するケース

マイホームを取り壊した更地を譲る場合でも、以下の条件を満たせば控除を適用できます。

【マイホームを解体・更地にして譲る際の条件】

・土地の売買契約が取り壊した日から1年以内に締結されていること

・住まなくなった日から3年を経過する年の12月31日までに売ること

・取り壊しから売買契約を結ぶまでに敷地をその他の目的で使用していないこと

出典:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁

土地の立地や建物の状況によっては、更地にしたほうが買主を見つけやすい場合もあります。更地であっても条件を満たせば控除を適用できるので、自身の状況を考慮しながら、さまざまな方法を検討しましょう。

人に貸していたマイホームを売却するケース

住まなくなったマイホームを人に貸していた場合でも、住まなくなってから3年経過した年の12月31日までに売却すれば、控除の対象となります。ただし、マイホームを取り壊した更地を人に貸してしまうと、控除が適用できなくなるので注意しましょう。

また、普通借家契約でマイホームを人に貸してしまうと貸主都合での退去が難しくなるので、期限内に売買契約を結べない恐れもあります。

居住用財産の3,000万円控除の節税効果・計算方法

続いて、控除を適用した際の節税効果をシミュレーションしてみましょう。

たとえば、以下の条件の人が控除の利用を検討中だとします。

【モデルケース】

・土地および建物の取得費:4,000万円

・売却金額:5,500万円

・譲渡費用:150万円

・その他、控除の適用要件はすべて満たすものとする

不動産の譲渡所得は「売却金額-(取得費+譲渡費用)」で計算できるので、下記のように計算可能です。

【計算例】

5,500万円-(4,000万円+150万円)=1,350万円

最大3,000万円までの譲渡所得を控除できるので、1,350万円の譲渡所得はすべて控除可能です。よって、ここで紹介した事例では、自宅売却の際に譲渡所得税がかかりません。

なお、取得費は「土地・建物の購入金額/建築金額/その他取得に要した金額ー減価償却費」で計算できますが、取得時の売買契約書や取得にかかった費用の領収書を紛失してしまうケースもあるでしょう。どうしても見つからない場合は、「譲渡収入額×5%」で概算取得費を算出できます

概算取得費は、実際の取得費との有利選択も可能です。実際の取得費が概算取得費よりも低いケースでは、あえて概算取得費を選択することもできるので、自分にとってよりメリットのある方を選択すると良いでしょう。

加えて、3,000万円控除を適用してもなお所得が出て税負担がある場合は、不動産の所有期間により税率が異なります。譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超える土地建物を「長期譲渡所得」、所有期間が5年以下の土地建物を「短期譲渡所得」といい、以下の税率・計算方法で算出できます。

【長期譲渡所得】

所得税:15%

住民税:5%

計算方法)

税額=課税長期譲渡所得金額×15%(住民税5%)

【短期譲渡所得】

所得税:30%

住民税:9%

計算方法)

税額=課税短期譲渡所得金額×30%(住民税9%)

参考:「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」|国税庁

参考:「No.3211 短期譲渡所得の税額の計算」|国税庁

居住用財産の3,000万円控除の手続き方法・必要書類

控除を適用するには、確定申告が必要です。また、確定申告の際は、さまざまな添付書類の用意が欠かせません。

詳しく見ていきましょう。

居住用財産の3,000万円控除の手続き方法

マイホームや土地を売却した場合には、売却した翌年に確定申告をしなければなりません。確定申告の期間は、例年2月16日~3月15日です。

なお、控除が適用されて譲渡所得税がかからなくなったとしても、確定申告は必要になるので注意しましょう。確定申告をしないと、控除が適用できません。譲渡所得税がかかるだけでなく、無申告として扱われ、延滞税や無申告加算税なども課される恐れがあります。

居住用財産の3,000万円控除の必要書類

確定申告で控除の申請をするには、下記の書類の提出が必要です。

必要書類
確定申告書
譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)
戸籍の附票・削除した戸籍の附票
※必要な場合と不要な場合がある
譲渡した自宅や土地の全部事項証明書
売却時の契約書等の写し

戸籍の附票や全部事項証明書は、市区町村役場や法務局にて請求する必要がありますので、早めに準備しましょう。とくに戸籍の附票については必要な場合と不要な場合があるため、最寄りの税務署に問い合わせて事前確認すると安心です。

また、必須ではありませんが、後日内容確認のために問い合わせがくることもあります。以下の書類も申告書に添付しておくとスムーズでしょう。

その他準備しておくとよい書類
取得時の売買契約書のコピー
取得費の領収書のコピー
譲渡費用の領収書のコピー

居住用財産の3,000万円控除と併用できる特例

マイホームの売却時に適用できる特例は、いくつかあります。中でも、「10年超所有軽減税率の特例」は、居住用財産の3,000万円控除と併用可能です。

以下のケースでは、「10年超所有軽減税率の特例」の併用も検討しましょう。

【併用できる条件】

売却した年の1月1日時点で、所有期間が10年を超えていること

譲渡所得が3,000万円よりも多いこと

売却した年の前年および前々年に当該特例の適用を受けていないこと

売却した土地家屋について、居住用財産の買い換え特例及び交換の特例の適用を受けていないこと

親族間での売買でないこと

出典:No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例|国税庁

居住用財産の3,000万円控除と併用できない特例

先ほど解説した10年超所有軽減税率の特例と異なり、併用が認められていないものもあるので、注意が必要です。

詳しく見ていきましょう。

住宅ローン控除

居住用財産の3,000万円控除と住宅ローン控除は、一緒に使えません。適用後2年間は住宅ローン控除を利用できないことから、マイホーム売却後に新たな住宅を購入し、住宅ローン控除を使おうと考えている方は注意が必要です。

控除利用後は取り消しができないので、3,000万円の特別控除と住宅ローン控除のどちらが節税できるのか事前にシミュレーションしておきましょう。

買い換え特例

買い換え特例は、マイホームを売却し買い換えた際に生じた譲渡所得を将来(買い換えた家を売却する時)に繰り延べできます。「免除」ではなく「繰り延べ」であるため、買い換え特例を選択する際にはしっかりと計画を立てておきましょう。

マイホーム買い換え時の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例

住宅ローンが残っているマイホームを売却したものの、借入金残高より低い価格でしか売却できなかった場合に、損失分と他の所得を通算できる特例もあります。

「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」も3,000万円控除との併用はできません。売却見込み額が赤字になりそうであれば、損益通算を利用したほうがよいでしょう。

マイホーム売却時の控除や特例を把握して戸建て売却・購入を円滑に進めよう

居住用財産の3,000万円控除を利用すれば、自宅売却にかかる税金を下げられる可能性があります。売却時にかかる税金を節税できたら、新しい住宅を購入する場合の資金計画も立てやすくなるはずです。マイホームを売却して新しい住宅の購入を考えている方は、利用を検討してみてはいかがでしょうか。

不動産についての不明点は住宅展示場でもご相談いただけます。ご予算や家族構成、理想のライフスタイルなどを相談してください。きっとあなたにぴったりの暮らし方が見つかるはずです。