【住宅購入の基礎知識】擁壁とは? 種類や工事費用、補助金も解説

2024年1月18日

住宅用地を探している時に、「擁壁(ようへき)」という用語を聞くかもしれません。販売されている住宅用地の中には、擁壁を造成しなければならない土地があります。ここでは、擁壁とは何なのか、擁壁が必要となるケースや、どれくらいの費用がかかるか、知っておきたい法律や補助金、そして擁壁に関して事前に確認しておきたい注意点を紹介します。土地や住宅を購入する際の基礎知識として押さえておきましょう。

擁壁とは? 擁壁の役割

擁壁とは、崖や建物などが崩れるのを防ぐために造られた壁状の構造物を指し、主な材料はコンクリートやブロック、石などです。外出先で周囲より地面が高い土地に建てられた住宅の敷地側面に、コンクリートなどで造られた高い壁を見かけたことはありませんか?その壁が擁壁です。地盤となる土壌が圧力によって崩壊するのを防ぐ役割があります。

擁壁はどんな土地に必要?

前に面する道路より丘や高台、盛り土によって敷地が高い土地など、周囲との高低差が大きな土地には擁壁が必要です。土壌には、重力による圧力がかかっており、横に崩れていく性質があります。積みあがった土壌が崩れずに保てる最大角度を「安息角(あんそくかく)」と言います。「安息角」を超えてしまうほど高低差が生まれる土地には安全のために擁壁を造る必要があるのです。

擁壁の主な種類

使われる材料や工法によって擁壁には種類があります。ここで主な種類について紹介しますので、購入を検討している土地に擁壁が必要な場合や、隣家に擁壁がある場合は特に参考にしてください。

「コンクリート擁壁」(RC造擁壁・無筋コンクリート擁壁)

擁壁で多いのは、「コンクリート擁壁」です。「コンクリート擁壁」は、コンクリートの中に鉄筋が入った「RC造擁壁」と「無筋コンクリート擁壁」に大きく分かれますが、強度や耐久性の面では「RC造擁壁」が優れています。また、「コンクリート擁壁」は、L型、逆L型、逆T型や、重量式、もたれ式などさまざまな形状があり、土地の様子や崩壊リスクの度合いなどで使い分けられています。「RC造擁壁」では、L型が一般的です。

間知ブロック擁壁(練積造擁壁)

「間知ブロック擁壁(練積造擁壁)」は、いくつものコンクリートブロックを斜めに積み上げて造成された擁壁です。傾斜がある壁面と、内側に鉄筋コンクリート造の補助的な壁がいくつもある点が特徴です。「間知ブロック擁壁」は基準を満たすことで高さ5mまで設置でき、高低差が特に大きい住宅によく用いられます。

石積み擁壁

「石積み擁壁」は、文字通り石を積み上げて造る擁壁で、「練り石積み擁壁」と「空石積み擁壁」に大別されます。「練り石積み擁壁」はセメントやモルタルで補強しながら石を積み上げたある程度の強度がある擁壁で、「空石積み擁壁」は石のみで造られた強度が低い擁壁です。「石積み擁壁」は現在あまり使われていませんが、特に古い擁壁で見られることがあります。強度の面で問題が出やすいため、購入する土地の近くにある場合は注意しましょう。

知っておきたい! 擁壁に関連する主な法律や許可・確認申請

擁壁に関して、確認しておきたい法律や許可・確認申請があります。ここで主な内容をピックアップしますので、知識として頭に入れておきましょう。

宅地造成等規制法

「宅地造成等規制法」(1961年制定)は、豪雨による土砂崩れで大きな被害が起きたことをきっかけに地域の災害防止を目的に作られた法律で、都道府県知事が指定した区域の宅地造成を規制しています。擁壁の工事は規制対象となり、事前に許可を受けなければなりません。また、すでに造成されている擁壁に対しても、危険性があると判断されれば改善の勧告や命令が出されます。

都市計画法

「都市計画法」(1968年制定)は、都市の健全な発展のための開発ルールを定めた法律です。第29条で、都市計画区域や準都市計画区域においての開発行為には、都道府県知事の許可を求めています。さらに、第33条の開発許可の基準の中に、崖崩れや地盤沈下といった災害対策として擁壁の設置を義務付けています。

建築基準法

建築物に関する最低基準を定めた「建築基準法」(1950年制定)では、2mを超える擁壁は工作物の扱い(施行令第138条)となり、造成するのに都道府県知事もしくは市町村長からの確認済証の交付を受けなければなりません(法第6条)。また、「建築基準法」(施行令第142条)で擁壁の構造についても定められています。

2mを超える擁壁工事には事前の確認申請が必要

少し先述しましたが、「建築基準法」の規定で、高さが2mを超える擁壁は確認申請が必要です。確認申請では、工事前に特定行政庁(都道府県知事や市町村長が管轄する行政機関)、もしくは確認検査機関によって「建築基準法」に適合しているかどうかチェックされます。また、「建築基準法」第19条を根拠に、多くの自治体では通称「崖条例」(正式名称は自治体による)と呼ばれる条例が定められており、条例の内容に当てはまる場合は擁壁の造成と各自治体への申請が必要です。通常、許可までには1カ月程度かかります。さらに「崖条例」によって、高さが2mを超えなくても申請対象となるケースがあるので注意しましょう。

「宅地造成工事規制区域」なら自治体の許可が必要

土地が「宅地造成工事規制区域」にある場合、「宅地造成等規制法」の規制を受けます。「宅地造成工事規制区域」とは、都道府県知事や市区町村長が崖崩れなどのリスクがあると指定する地域のことです。地盤改良や擁壁などの工事計画について基準を満たし、許可を受けなければなりません。工事後にも検査があり、基準に適合すると「検査済証」が交付されます。また、「宅地造成工事規制区域」以外に「造成宅地防災区域」という都道府県知事から擁壁の造成を指示される区域があることも知っておきましょう。

擁壁の工事費用は誰が負担する?

擁壁の工事費用を負担するのは基本的に土地所有者です。ただし、隣接する高低差のある住宅の下側の土地所有者が、危険防止のために上側の土地所有者に擁壁の設置を求めるようなケースの裁判では、どちらともに費用負担が求められる傾向にあります。ただし、双方負担の判決の場合でも、上側の土地所有者の負担割合の方が高い判例、全額が上側の土地所有者負担となった判例も出ており、上側の方が負担割合が高くなるケースが多いと言えるでしょう。また、不動産会社で販売される分譲地の場合は、価格に擁壁の工事費も含まれているのが一般的です。念のため購入前に確認しておきましょう。

擁壁工事の費用・工期はどのくらいかかる?

擁壁の工事費用には1平方メートルあたりの単価があるため、面積でおおよその工事費用の計算が可能です。単価の相場は3〜5万円程度と言われますが、工事業者によって幅があります。また、設置する「擁壁」の高さや種類、工法、土地の状態、道路幅などの周辺状況によっても費用が変わるでしょう。耐久性のある「RC造擁壁」の場合は、1平方メートルあたり5~10万を単価の目安にするといいかもしれません。工期は早くても2週間~1カ月半程度、大規模な工事では3カ月程度かかることもあります。

擁壁工事に補助金はあるの?

擁壁の工事には各自治体で補助金が用意されている場合が多いです。自治体によって補助金の内容に違いがあるのでチェックしてください。

知っておきたい! 擁壁に関するデメリット

購入する土地に擁壁の造成が必要な場合、気になるのはデメリットではないでしょうか。購入後に知らなかったと後悔しないように、ここで擁壁に関するデメリットを押さえておきましょう。

擁壁工事で建築コストが高くなる

大きなデメリットは、やはり建築コストが高くなる点です。土地や住宅建築の費用の他に、擁壁の造成に予算を大きく割く必要があります。工事費用は安くないので、大きな負担に感じるかもしれません。

建築可能面積が減る可能性も

高い擁壁の場合、「宅地造成等規制法」や「崖条例」の決まりによって、擁壁から一定距離を置いて住宅を建築するように規制されるケースがあります。すると、離した距離分の建築可能面積が減ってしまうのです。

将来的にメンテナンスが必要

「コンクリート擁壁」の耐用年数はおおよそ30~50年。しかし、劣化は避けられないのでメンテナンスが必要です。通常、擁壁には排水用の穴が開けられていますが、目詰まりを起こしていたら放置するのは危険。また、擁壁に変形、ひび割れ、ふくれなどが見られたら早めに処置しましょう。特に問題がなさそうでも、20年位経ったら一度検査すると安心です。

トラブル回避のために注意しておきたいポイント

擁壁に関してのトラブルが発生する場合もあります。擁壁は、隣家との敷地の境に造られるケースも多いため、隣人トラブルに発展する可能性もあるのです。ここでは、トラブルを回避するためのポイントをチェックしましょう。

隣家との境界線上に擁壁工事が必要な場合

隣家との境界線上に擁壁を設置しなければならない場合は、工事前に隣家と相談しておきましょう。

一般に高低差のある住宅が隣り合う場合には、上側の土地所有者が擁壁工事の費用を負担するケースが多いですが、下側の掘削工事などで高低差ができた場合は下側の土地所有者が負担するケースもあります。

共同で設置する場合は、メンテナンス費用の負担割合も決めておくとベストです。
また、土中に埋める基礎が隣家の許可なく境界線を超えてしまうと後々トラブルになりかねません。基礎を自分の敷地内におさめると土地面積が大きく減ってしまう場合は、基礎部分は敷地をまたぐ許可がもらえないか隣家と相談しましょう。

購入を検討している土地の隣に擁壁がある場合

購入を検討している土地の隣に擁壁がある場合、擁壁の管理者は隣人ですが、擁壁の状態はチェックしておいた方が良いでしょう。特に、擁壁がある下側の土地を購入する場合は、擁壁の状態によっては自分に危険が及ぶリスクがあります。擁壁が古くないか、擁壁の状態に問題はないか、できる限り詳細に確認しておきましょう。購入後に擁壁にメンテナンスが必要な状態だと気づいても隣人が必ず対応してくれる保証はなく、隣人トラブルが起きてしまう可能性も否めません。隣家に状態の悪い擁壁がある場合は、購入を見送った方が賢明です。

購入を検討している土地にすでに擁壁がある場合

すでに擁壁がある土地の購入を検討する場合、安全に問題がないか確認してください。「建築基準法」が制定される前の古い擁壁などは、確認申請によって基準を満たしているかの審査を受けていません。そのため基準を満たしていない場合は、新たに擁壁を造り変える必要があります。確認申請されて基準を満たしている擁壁なら、確認済証があるはずです。ただし、確認済証があっても、劣化している心配は残ります。また、そもそも2m以下の擁壁の場合は確認申請が不要であるため、安全かどうかの判断が難しいでしょう。いずれも購入前に専門業者に調査してもらうと安心です。

高低差のある土地購入を検討する際は、擁壁についても要確認!

高低差がある土地の購入を考える場合は、擁壁が必要かどうかも確認しましょう。擁壁が必要な土地は、崖崩れのリスクがある場所とも言えます。地盤に問題がない土地かも合わせてチェックし、基準を十分に満たした安全な擁壁を造ることが大切です。擁壁について分からないことがあれば、ハウスメーカーに相談するのも良いでしょう。まずは、展示場に行って話してみませんか。