近年、日本では大きな災害が頻発しており、家づくりにおいても耐震性や耐久性といった災害対策への関心は高まっています。
防災を意識した家づくりは、どのように行えばよいのか?防災の専門家に、家づくりにおける防災のチェックポイントについてお話を伺いました。
第2回の今回は、第1回の土地選び編に続き、家づくりにおける災害別のチェックポイントをお届けします。
この記事の目次
高荷智也(たかにともや 備え・防災アドバイザー|合同会社ソナエルワークス 代表)
「備え・防災は日本のライフスタイル」をテーマに「自分と家族が死なないための防災対策」のポイントをロジカルに解説するフリーの専門家。大地震や感染症など自然災害への備えから、銃火器を使わないゾンビ対策まで、堅い防災を分かりやすく伝える活動に定評があり、講演・執筆・メディア出演の実績も多い。防災YouTuberとしても多くの動画を配信中。著書に「今日から始める本気の食料備蓄(徳間書店)」他多数。1982年、静岡県生まれ。
防災を意識した家づくりの重要性
高荷さん曰く、防災対策の重要ポイントは大きく2つ、1つは「災害の被害を受けにくい場所に家を立てること」、もう1つは「大地震の直撃を受けても倒壊しない家に住むこと」だと言います。
「防災リュックを用意したり備蓄品を揃えたり、家の中でいろいろと対策をおこなっていても、家が崩壊してしまえば無意味になってしまいますよね。あらゆる対策の中で、土地選びと住宅選びの2点をおこなうことが『最重要防災対策』です」
防災から考える家づくり。プロから学ぶ、ハザードマップを活用した土地選びのコツ
ハザードマップを活用した土地選びのコツについて、備え・防災アドバイザーの高荷智也さんに伺いました。これから土地探しを始める方だけでなく、すでに住みたい場所が決まっている方も、本記事を参考に防災に配慮した家づくりを考えてみてくださいね。
数ある災害の中でも、特に地震は事前予知が不可能なものです。地震が発生したとき、耐震性のある家に住んでいるかどうかで生死が分かれます。家づくりにおいては特に地震への重点的な対策が必要です。
災害別!家を建てる際のチェックポイント
では、具体的にどのような対策が必要なのでしょうか? 家を建てる際の注意点について、災害別にうかがいました。
地震
「日本は非常に地震の多い国ではありますが、地震そのものでは人が死ぬことはありません。その場所に潰れる建物があり、倒れる家具・家電があるから潰されて死に至ってしまうんです」
つまり、家が潰れないように適切な対策をおこなっていれば、少なくとも大地震直後に即死する可能性を大きく減らせますし、津波や地震火災などの二次災害からの避難も、スムーズに行える様になるわけです。
「建物の地震対策には、『耐震』『制振』『免震』の3種類があります。
『耐震』は、揺れても潰れない頑丈な家を作ること。地震が起こっても家は潰れませんが、家の中にある固定していない家具や家電はぐちゃぐちゃになってしまうため、家の中も一緒に対策が必要です。例えば、単体で置くタイプの家具は、クローゼットや造作家具など、備え付けのものにするほうが良いでしょう。
『制振』は、建物の中、例えば、壁や天井にオイルダンパーなどを入れ、揺れを吸収する技術です。地震による揺れを小さくするため、当然被害も小さくなります。耐震より効果は高いですが、その分費用もかかります。
『免震』は、建物の基礎にバネのようなものを入れて、揺れが建物に加わらないようにする技術です。免震構造を取り入れることで、例えば震度6強〜7の揺れも、震度3〜4程度の揺れに抑えることができます。地震対策としては最も効果的といえますが、この3つの中では最も費用がかかります。高層ビルに多く採用されています」
どの構造を採用するかも大切ですが、何よりも、まず建物を頑丈に作ることが防災対策の基本とのこと。RC(鉄筋)やツーバイフォーといった構造や素材の種類はさまざまですが、建物の耐震性能は設計による影響が大きいため、どのような工法を採用するかを悩むよりは、結果としての「耐震等級」で判断するとよいそうです。
「耐震等級は1~3まであります。1は法律で定められた最低基準の耐震性となりますが、この最低基準がそもそも「2000年基準」と呼ばれる最も新しい耐震基準となりますので、耐震等級が1だから地震に弱い、ということはありません。
しかし、2016年の熊本地震では、わずか2日の間に震度6弱が3回、6強が2回、7が2回生じていますが、耐震等級1(2000年基準)の建物にもわずかながら倒壊・大破の被害が生じているのに対し、耐震等級3の家は9割が無傷、残りも軽微な損傷だったという調査結果が明らかになっています」
火災
オール電化住宅の増加、住宅用火災警報器の普及、またタバコの喫煙率の低下などに伴い、火災の件数は年々減少傾向にあります。しかしながら、一方で火災が完全になくならないのは、悪意を持った放火が減らないことが理由の一つです。
「放火対策としては、治安が良い土地選びや、ご近所付き合いなどの人間関係などを良好にすることが大切です。家造りの観点では、周囲からの目隠しになる壁や塀などをむしろ設けない、家の周囲に砂利を入れる、ライトを点ける、といった方法があります。特に防犯の観点で言うと、窓を頑丈にしておくことも大切ですね。これは次にお話する防風の面でも役に立ちます」
台風、竜巻
「建築基準法では、地震と同様に風に対する頑丈さの基準が定められています。地域によって基準は異なりますが、法律に則って建てられた家なら基本的には問題ないでしょう。
ただし、強風による飛来物で窓ガラスが割れてしまう恐れがありますので、対策が必要です。窓ガラスが割れてしまい、強風が中に入り込んで屋根が飛んでしまった、という事例もありますからね」と高荷さん。
例えば、雨戸やシャッターの設置や、ガラスを選べるのであれば『防災安全合わせガラス』という割れない種類のものを採用する、といった方法がおすすめだそうです。
噴火、大雪
大雪に関しても、建築基準法に則って建てられた家であれば、毎年生じる「少しひどい程度の積雪」であれば、建物が倒壊するおそれは低いと言えます。
一方屋根に火山灰が大量に降り積もった場合、直後に降雨があると火山灰が水を吸収して重量が極端に増します。目安として、30cmの厚さの火山灰に降雨が生じた場合、木造住宅が倒壊する可能性があるため、そうした被害を受ける可能性がある地域にある場合は、火山灰を屋根から下ろす準備が必要になる可能性もあります。
「極端なドカ雪、あるいは噴火による大量の降灰が見込まれる地域に家を建てる場合は、屋根に取りつけるオプションとして、雪下ろし・灰おろし作業をする際にハーネスを取りつける金具やパイプを設置することも、検討してよいかもしれません」
防寒
2023年は数年に一度の大寒波で、水道管の凍結がトレンドになっていましたが、家を建てる時点で何かできる対策はあるのでしょうか?
「凍結対策がなされていない水道管は、氷点下4℃以下になると凍結する可能性が高まります。北国に限らず、あたたかい地域でも大寒波への備えをおこなっておくと安心ですね。
家を建てる際、業者に床下の水道管周りの断熱や、屋外に設置する蛇口などに対する断熱を依頼しておくとよいでしょう。少し費用はかかりますが、万が一凍結して水道管が破裂してしまった時の修理費用に比べればわずかな出費で済みます。ぜひ対策を施していただきたい部分です」
洪水、津波
残念ながら、洪水や津波の浸水から戸建ての家を守ることは不可能に近い、と高荷さんは言います。
「水害の可能性がある地域にどうしても戸建てで住みたい場合は、1階は浮かせて柱しか置かないといった方法もありますが、あまり現実的ではありません。水害は多くの場合、事前にある程度予知することが可能です。避難指示が出たらすぐに避難できるような準備をしておくことが最も重要です」
防災を意識した住宅メーカー選びのポイント、間取りのポイント
防災を意識した家づくりをおこなう際の住宅メーカー選びには、どういったポイントを押さえれば良いかも伺いました。
「実際のところ、災害時の復旧対応や補償のことを考えると、大手住宅メーカーで家を建てる方がメリットは大きいと感じています。
全国展開していれば、災害があった場合にも被災地の外から応援がきてくれる可能性も高いのですが、自宅と同じ地域にある中小住宅メーカーや工務店だと、同様に被災している可能性が高く、修理に時間がかかることも考えられます。大規模災害発生時にどのような対応をすべきか、事前に施工会社へ確認をしておくとよいでしょう」
また、間取りに関しては、家具を置かなくて済むような設計にすることも効果的とのこと。
「もし後付けで家具を設置する場合、すでに設置場所が決まっているなら、家を建てる時、家具の設置場所に必ず下地を入れておくように依頼しましょう。下地がないと、家具をネジで固定できません。
その他、防災を意識するなら、食料の日常備蓄も行いたいものです。キッチン隣接のストックスペースを作れば、無理なく食料の防災準備ができるのではないでしょうか。
また、ソーラーパネルと住宅用蓄電池は災害時に有用ですので、予算があえばぜひ設置することをおすすめします」
これからは防災を意識した家づくりが重要
日本では、地震をはじめ様々な災害の可能性があります。被害を最小限に抑えるためには、今回ご紹介した防災を意識した家づくりがとても重要です。これから家づくりを始める方は、本記事を参考に、災害を意識した土地選びと住宅選びをおこない、災害に強い家づくりを意識していきましょう。