地震の多い日本では、住宅の耐震性が重要です。
そこで、中古住宅を購入する際に気になるのが「新耐震基準」「旧耐震基準」という言葉です。
ここでは両基準の違いを解説し、確認方法について紹介します。
中古住宅の購入を検討している方は、ぜひ参考にしてくださいね。
この記事の目次
「新耐震基準」とは?
「耐震基準」とは、地震が起きた際に住宅が倒壊や損壊しない基準です。
建築基準法で定められており、住宅を建てる際に、必ず基準を満たさなければなりません。
新耐震基準が適用されるようになったのは1981年6月1日からですが、「新耐震基準」とはどのようなものなのでしょうか。
1981年に改正された建物の耐震性の基準
耐震基準は、1981年に改正されました。
震度6~7程度の地震にも耐震性があるとされる「新耐震基準」です。
1981年より前の基準が、震度5強程度の地震に対する耐震性を定めた「旧耐震基準」で、1981年5月31日までは旧耐震基準に則って住宅が建てられました。
耐震基準が1981年に改正された理由は、1978年に発生した宮城県沖地震の被害状況が要因です。
1978年6月12日、震度5(マグニチュード7.4)の大地震が宮城県沖で発生し、現在の仙台市域が大きな被害を受けました。
住宅の被害が非常に大きく、全半壊4,385戸、一部損壊8万6,010戸。
この宮城県沖地震を契機として耐震基準を見直す必要性が高まり、1981年に耐震基準法が改正され、現在に至ります。
なお、両基準比較および違いは、次章にて解説します。
旧耐震基準との被害の差
実際に地震が起きた際の被害として、どのくらいの差が出るのか気になる方も多いのではないでしょうか。
参考になるデータとして、国土交通省がまとめた資料『住宅・建築物の耐震化に関する現状と課題』から、阪神淡路大震災の被害状況について紹介します。
1995年に発生した阪神淡路大震災は、神戸市と洲本市で震度6を記録した大規模地震です。
この地震での死者数(直接死)は約5,500人と甚大な数におよびました。
そのうちの88%が住宅や家具などの倒壊による圧迫が原因と見られており、背景には、住宅の築年別の被害状況があると考えられています。
旧耐震基準が主流だった1981年より前に建てられた住宅のうち、約65%が「大破以上」「中・小破」。
一方で、耐震基準の法改正が施行された1981年以後に建てられた住宅は、「大破以上」と「中・小破」を合わせて約25%でした。
以上のことからも、当時の新耐震基準で建てられた住宅のほうが、旧耐震基準の住宅よりも耐震性が高かったことがわかります。
2000年にも現行耐震基準として改正を実施
阪神淡路大震災では、当時の新耐震基準で建てられた住宅の被害は抑えられたものの、大きな被害が出たことに間違いはありません。
2000年6月、さらに住宅の耐震基準を見直す動きにより建築基準法が改正され、より厳しい基準が設けられました。
改正対象となったのは木造住宅で、例えば「接合方法」や「地盤」に関する項目が追加されています。
新基準は「2000年基準」とも呼ばれ、木造住宅に関しては新耐震基準よりも新しいです。
新耐震基準と旧耐震基準の主な違い
新耐震基準と旧耐震基準は、震度5強程度の地震と震度6~7程度の地震に対して基準が変わります。
また、住宅ローン控除やフラット35、地震保険の保険料についても異なるため、以下で詳しく見ていきましょう。
震度5強程度の中規模地震に対する耐震基準
旧耐震基準は、中規模地震(震度5強程度)に対する「許容応力度」を定めた耐震基準です。
震度5強とは、以下のような揺れの程度になります。
- 物につかまらないと歩くのが難しい
- 棚にある食器類や本などの多くが落ちる
- 固定していない家具が倒れることがある
新耐震基準と旧耐震基準について考えるうえで、震度についてだけでなく、許容応力度についても確認しておきましょう。
住宅などの建物の各部材は、地震などの外的な力に対して応力(抵抗力)が働き、外的な力との均衡を保てれば倒壊や損壊を防ぎます。
応力の発生に伴い各部材の断面には応力度が作用しますが、各部材が耐えられる最大の力が「許容応力度」です。
許容応力度以下の基準にすることで、外的な力が発生しても建物は元の状態に戻れると考えられています。
旧耐震基準では震度5強程度では建物が倒壊せず、ほとんど損傷しないように定められており、一方の新耐震基準では、中規模地震においては軽いひび割れ程度に抑えることを前提とした基準です。
以下にまとめましたので、参考にしてみてくださいね。
旧耐震基準 | 新耐震基準 | |
震度5強程度 | ・建物の倒壊なし ・ほとんど損傷しない (傷があっても補修で生活可能レベル) | ・建物はほとんど損傷しない (軽いひび割れ程度) |
震度6~7程度の大規模地震に対する耐震基準
震度6~7程度の地震は、以下の程度に表せます。
- 震度6弱:立っていることが難しく、固定していない家具の大半が移動する。耐震性の低い木造住宅は傾いたり倒れたりするものもある
- 震度6強:はわないと動けず、固定していない家具の多くが倒れる。耐震性の低い木造住宅は倒れるものや傾くものが多くなる
- 震度7:耐震性の低い木造住宅で倒れるものが多くなり、耐震性の高い木造住宅でもまれに傾くことがある
旧耐震基準では、震度5以上の地震が発生した際に住宅が倒壊または損壊しないかどうかは検証されていなかったため、大規模地震が起きた際の被害については保証されていない状態でした。
しかし、1978年に発生した宮城県沖地震で大きな被害が出たことで、状況は変わります。
宮城県沖地震は震度5だったため、当時の耐震基準(現在の旧耐震基準)の対応範囲とされていましたが、実際には震度5でも相当数の被害が発生したため、耐震基準を見直す動きになったのです。
そして、1981年に建築基準法が改正され、震度6~7程度の大規模地震に対する耐震基準も加えられた「新耐震基準」となりました。
新耐震基準では、中規模地震が発生した際の倒壊または損壊の検証部分(旧耐震基準の対応範囲)を「一次設計」とし、新たに、大規模地震での倒壊、損壊の検証部分である「二次設計」を定めました。
「二次設計」を定めたことにより、中規模地震(震度5強程度)ではほとんど損傷せず、大規模地震(震度6強~7)の地震では倒壊または崩壊しないと定められています。
震度6~7程度の耐震基準の違いも、表にまとめましたので、参考にしてみてください。
旧耐震基準 | 新耐震基準 | |
震度6~7程度 | ・規定なし | ・震度5強程度の地震でほとんど損傷しない ・震度6強~7に達する程度の地震で倒壊、崩壊しない |
住宅ローン控除(減税)
住宅ローンを利用すると、毎年度末の住宅ローン残高の0.7%が所得税や一部翌年の住民税から最大13年間控除されるという、利用者に嬉しい制度があります。
しかし、中古住宅では住宅ローン控除が適用されない場合もあるため、注意が必要です。
1982年1月1日以後に建てられた住宅には、住宅ローン控除が適用されます。
一方、1981年12月31日以前に建てられた住宅では、「耐震基準適合証明書」などを提出しなければ、住宅ローン控除が適用されません。
この点については、4章でも解説します。
フラット35の適用
住宅購入時にフラット35を利用する方にとっても、耐震基準は重要です。
中古住宅を購入する際、住宅金融支援機構が定める技術基準に適合していることを示す「適合証明書」を取得しなければ、フラット35が適用されません。
「適合証明書」を取得するためにチェックされる技術基準の中には「住宅の耐震性」の項目があります。
一般的には、建築確認日が1981年6月1日以後であることが合格条件です。
しかし、1981年5月31日以前の建築確認日だとしても、住宅金融支援機構が定める耐震評価基準に適合すれば、フラット35が適用されるとしています。
地震保険の保険料の割引率
住宅の地震保険は、旧耐震基準の住宅と新耐震基準の住宅で保険料の割引率に差が出ることも覚えておきましょう。
新耐震基準を満たす耐震等級1では10%の割引、1.25倍の耐震性がある耐震等級2は30%割引、1.5倍の耐震性がある耐震等級3では50%の割引率です。
現在の免震や耐震性能における割引対象とならない旧耐震基準の住宅は、保険料が割高に設定されていることが多いため、保険会社にあらかじめ見積もりをとるなどして確認しましょう。
中古住宅は新耐震基準物件かどうかの確認を【方法を紹介】
ここでは、耐震基準の確認方法を紹介します。
中古住宅の購入時には、住宅ローン控除や地震保険料などだけではなく、自身や家族の安全を守るためにも新耐震基準かどうか必ず確認しましょう。
新耐震基準の見分け方1|建築確認証明書をしっかり確認する
設計時に旧耐震基準が用いられていることがあるため、住宅の建築日(築年日)だけでは、どちらの耐震基準なのか明確ではありません。
築年日は住宅が完成した日のことであるため、設計されたのは新耐震基準への法改正前ということもあります。
つまり、築年日は新耐震基準に改正された1981年6月1日以降だとしても、設計されたのは1981年6月1日以前の旧耐震基準である可能性があるということです。
設計時にどちらの耐震基準が使われたか確認するには、建築確認証明書に記載された「建築確認日」を確認しましょう。
建築確認日とは、住宅建築前に設計が問題ないことを確認できた日です。
建築確認日が新耐震基準への改正後であれば、新耐震基準に適合していると判断できます。
新耐震基準の見分け方2|耐震基準適合証明書を確認する
新耐震基準に適合しているかどうかを証明する「耐震基準適合証明書」があれば、新耐震基準であると判断可能です。
建築基準法が改正される1981年5月31日以前に建てられた中古住宅であっても、施工主の希望などによって新耐震基準同等の耐震性を持つ住宅もあります。
旧耐震基準の住宅の注意点・対策
建築確認証明書や耐震基準適合証明書を確認したうえで、中古住宅が旧耐震基準だったとしても、諦める必要はありません。
以下のポイントを実行することで、住宅ローン減税制度を導入する政府や、地震保険を提供する保険会社などからも、新耐震基準の住宅であると判断されます。
耐震診断を行って耐震性を確認する
専門家による耐震診断を行い、住宅の耐震性を調べましょう。
耐震診断は新耐震基準で耐震性を調べられるため、1981年5月31日以前に建てられた住宅が新耐震基準に適合しているか確認できます。
補強工事を行う
耐震診断で新耐震基準に適合していないことが判明したら、速やかに以下のような補強工事を行い、住宅の耐震性を高めましょう。
- 住宅の基礎部分の補強・補修
- 柱や壁の補強
- 接合部分の改修
なお、耐震診断や補強工事に際して、地方自治体からの補助制度や助成制度が受けられることもあります。
お住まいの自治体に確認すると安心ですね。
耐震基準適合証明書を取得する
新耐震基準に適合した住宅であることを証明する「耐震基準適合証明書」を取得しましょう。
耐震基準適合証明書があることで、以下のメリットも得られます。
住宅ローン控除を受けられる
2022年度の税制改正で住宅ローン控除の要件が緩和されたことにより、1982年1月以降に建てられた新耐震基準の住宅であれば、住宅ローン控除を受けられるようになりました。
1981年12月31日以前に建てられた住宅を取得された方も、諦めることはありません。
耐震基準適合証明書などの必要書類を用意し、新耐震基準に適合していることが証明できれば、住宅ローン控除を受けられます。
地震保険の保険料も割引になる
旧耐震基準の住宅は、新耐震基準の住宅に比べて地震保険の保険料が高くなりますが、耐震基準適合証明書があれば耐震等級に応じて保険料が割引されます。
さらに、住宅品質確保を目指す「住宅の品質確保の促進等に関する法律」の耐震等級を保有していれば、さらなる割引も適用可能です。
新耐震基準住宅の購入は中古だけでなく新築も視野に
地震は、いつ起きるかわかりません。日本では、近い将来に大規模地震が発生することも予測されています。
過去の大規模地震では、新耐震基準の住宅と旧耐震基準の住宅では被害に大きな差があったため、新耐震基準の住宅を選ぶことが、自身や家族の安全を守ることにもつながるでしょう。
しかし、新耐震基準と旧耐震基準の確認方法は複雑なうえ、旧耐震基準の住宅だった場合には適切な対応が求められます。
新耐震基準住宅を購入したい方は、中古住宅だけでなく新築住宅も視野に入れてみましょう。
耐震基準については、住宅展示場に常在している家づくりの専門家にも気軽に相談してみてくださいね。
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